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カーボンベルベットを見てきた

 どうも最近しょっちゅうと読む)製作意欲が湧かないので、すこし刺激を受けようと東京のギャラリー巡りをしてきた。写真や絵画を中心に五六カ所の展示を見て回った。それぞれになんらかの刺激を与えてくれたが、その中でこれは今回の主たる目的の個展でもあったのだが、安田雅和氏の写真展に大いに感銘を受けた。安田氏は京都在住の写真家で、以前よりコロジオン法などのalternative技法を研究発表されておいでの方。幸いにも在廊されたご本人に長時間お話を聞くことができた。15年ほど前からはカーボンベルベット(アンスラコタイプともよばれる)プリント技法を追求されており、今回もその技法でのプリント20点の展示であった。実はこのカーボンベルベットプリントは私が最初にやろうと思ったalternative技法で、材料なども揃え始めていたのだが、ほぼ同じ材料を使うカーボントランスファーの方に興味が移ってしまい、とうとう試みずじまいとなったいきさつがあった。それでもいつかやってみたいという心残りのようなものが存在していたのだが、はからずもその本物に出会うことができたわけである。この技法を簡単に説明すれば次のようなものだ。ゼラチンと重クロム酸の混合物を紙に塗布し、ネガを重ねてUV露光をする。これを水で膨潤させると硬化の度合いによるレリーフができる。この上にカーボン粉末を振りかけ、刷毛づかいによって望みの階調を現していく。いわばオイルプリントの粉末版、といえばお手軽に聞こえてしまうが、逆に作者の写真技術に加え絵画的センスが決定的な優劣となって現れる恐ろしい技法でもある。
 さて、安田氏の作品は全作パリの情景ということだが、漆黒のトーンがその名のようにベルベット生地のようなつや消しの艶をたたえ、光の角度では銀色のかがやきを放つまことに美しい画面であった。写真ではあまり使われないマチエールの美しさという言葉がふさわしいだろう。細部の写実描写を求める技法ではないのだが、逆にその特徴を生かすためのネガ作りからの工夫がこらされているという。不思議に被写体の持つ材質感や立体感も感じることができた。写真と絵画の幸福なfusionであろうか。
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at東京四谷 Roonee 247 Photography
by blue-carbon | 2011-07-30 11:09