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カーボンプリントの技法を概説1

 これまでの記事と順序が逆になった気がするが、ここで、カーボンプリントについて簡単に説明しようと思う。
 カーボンプリントは1860年代にイギリスにおいて技法が完成された。もともとは、他の写真法に見られるような変色(退色)が無く、耐久性のあるものを求めて研究されたようである。そのため、当初は最も耐光に優れ、耐久性のあるカーボン(炭素)が利用された。これが名前の元になっている。やがて色彩に変化をつけるため、各種のピグメント(顔料)も使用されるようになったのである。実際に制作された年代としては、19世紀後半から1930年代までといったところだ。耐久性と階調の良好さから、美術品の写真複製や図版の作成などに多用された。残念ながら日本での普及はほとんど見られず、当時の実物をみることはなかなかむずかしい。
 ところで、ピグメントといえば、ふつう画材店などで売られている粉末状の顔料をいう。カーボン粉末もその中に含まれる。この粉末をつかう他の技法としては、アンスラコタイプ、ダストタイプなどがある。また、ピグメントを各種の油性や水性のバインダーに練り込んだ、いわゆるチューブ絵具類も写真プリントに使われている。これには、ガムプリント、カーブロプリント、オイル(ブロムオイル)プリント、フォトグラビア等がある。そして、カーボンプリントは、これら粉末顔料も水彩チューブ絵具も、更に書道の墨汁さえも利用できるのだ。もちろん製品によっては不適当なものも存在するが、多様な色材を選べることは、カーボンプリントの楽しみのひとつといえる。
 さて、カーボンプリント技法の最大の特徴は画像の転写にある。たいていの写真技法は、一枚のベース(紙であれガラスであれ)の上にイメージを結像し、これを最終画像とする。つまり、ネガの有る無しは関係なく、感光(乳)材を塗ったベースがその後のプロセスを経て、そのまま鑑賞物となるわけだ。ただしフォトグラビアなどの製版印刷的なものは、技法的に別種である。これに対しカーボンプリントでは、ベース上に塗った感光材の上に、いったん画像(潜像)を形成し、この画像を更に別のベースに移し(転写)た後に最終画像とする、という一見複雑な過程をふむ。しかも、一度転写(假転写)したものを更に別のものに転写するという、複転写の手法もある。顔料の粒子はフィルム中の銀粒子などにくらべれば遥かに大きい。それにもかかわらず、カーボンプリントに豊かな階調と解像度を与えるものが、この転写という手法なのである。
 
次回からは、もう少し具体的に解説していく。

<興味ある方への参考文献>
「手作り写真への手引き」 荒井宏子著  写真工業出版社
「最新冩眞大講座9」  アルス
「Book of Modern Carbon Printing」 Dick Sullivan HonFRPS (PGI 取り扱い)
 A Primer on Carbon Printing  Sandy King
The Carbon Transfer Process Sandy King