sensitizeを終えたカーボンティシュが未露光のままでいつまで有効か、という問題は重要である。クロム類をsensitizerとした場合、多くの技法書には塗布乾燥後速やかにとか当日の内に露光すべしとあることがほとんどである。例えば今日sensitizeしたら明日露光すれば良いということはないのだ。これはゼラチンやカゼインなどとクロムとが混ぜられた時から暗反応/dark reactionが始まることによる。暗反応とは『光合成のように光で誘導される反応のうち,光が直接関係しない反応。(栄養・生化学辞典)』であるが、クロムの場合にはこの暗反応が緩やかだが着実に進行してしまうので、そのティシュの有効期限が短いという制約があるのだ。この暗反応は具体的にはUV光線を当てた時の明反応と同様のゼラチンの硬化が起きることである。では暗反応が進行していくとどうなるか。この場合ネガ露光のように諧調に応じて乳剤表面から深まる硬化とは違い、乳剤全体が一様に硬化していくわけである。これはプリントの工程においてはまず規定温度の温水では未露光カーボンが溶けにくくなることでわかる。冷水中で合わせたティシュとサポート紙を温水中で分離する際に、通常であればサポート紙側にベッタリとカーボンが着くはずが、きれいにテッシュ側に全部残ったまま剥がれたりする。まだ弱い暗反応の内であれば水温を上げることで救われることもあるが、サポート紙側の接着力が弱まったりして失敗することが多い。また暗反応もいわばクロムの消費であるので全体に不安定な画面となる。結局同時にsensitizeしたティシュは全て無駄になる。
さて、本題のDAS使用カーボンティシュの保存性であるが、結論から言えば、DASでは暗反応が起きないということである。特にDASをティシュ作成時にゼラチン+色材の乳剤中に混入(pre-sensitized)した場合には非常に安定させることができる。海外ではこのpre-sensitizeしたティシュは遮光して冷蔵すれば数年間は使えるとまでいう人がいるらしい。私は数年などもちろん未経験であるが、室温22〜25℃の遮光箱に保管して2ヶ月後に露光してみたものでは確かに異常は感じられなかった。今後さらに保存期間を延ばして実験してみたいと思う。ただ不安定な室温と湿度ではゼラチン自体が不溶化してしまう危険はあるのだが。
この安定性の良いpre-sensitizedティシュの存在は、無毒性に加えてカーボンプリントに大いなる優位性を与えてくれるものである。個人にとっては長期の作り置きができることで作品制作に余裕が生まれることになる。面倒な刷毛塗りなどの作業が省略され、ネガができたら直ちに適当なティシュ(コントラスト、色調など)を選んで露光に移れるし、大きなティシュから切り出しても残りを保存できる。特に刷毛塗りでのsensitizeの場合、どうしてもカーボン面外縁部の塗りムラが心配で切り出しが中心部に寄ることがあるのだが、pre-sensitize であればギリギリの大きさまで不安なく利用できるのだ。さらにこれは私の想像ではあるが、カーボンプリントをやってみたい人に安全なpre-sensitizedのティシュを提供することも可能になるのではないか。作業環境も緩くてすむし露光も太陽光線でできるのだから、少しの道具立てさえあれば十分に可能なことだと思うのである。
以上
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by blue-carbon
| 2020-07-12 18:44
| DAS使用のカーボンプリント