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 私のブログを訪問してくださる方で、The Chiba-sistem(チバ-システム)記事へのアクセスが比較的多いことに少々戸惑っている。Chiba-sistemについては記事に載せた以上の追試はほとんど進めていなかったので、興味を持たれた方には申し訳ないのだが、その理由としては私の求める画像を作るに満足のいく技法でなかったということに尽きる。これは決して悪く言っているのではない。記事中にもあるように、元は千葉大学の院生の方が、有害な薬品を排除したNon-toxic(無毒)なオルタナティブ印画技法として研究発表された論文であって、そのNon-toxicという特徴は私の(そして私同様に試された方々の)興味を引くものであったと言える。しかし残念ながら私はこのプロセスで一応の画像は得たものの、自分にそれを改善していける可能性が感じられなかったのである。特にCarbonPrintにおいてはChiba-sistemの応用は無理であった。
 但し無論この結果ははあくまでも私個人の場合であってChiba-sistemを研究しその特徴を生かした作品を作った人がいることは否定しない。
 そんなわけで、Chiba-sistemを諦めた私が次に出会ったNon-toxicなsensitizerがDASということになったのである。

# by blue-carbon | 2020-06-09 21:37
DASによるsensitizingの続きを書く。
DASはオルタナティブな写真製作において基本的にクロム系のsensitizer との互換利用が可能である。しかし前回に書いたように性格を異にするものであるので、レシピとしては独自の組み立てが必要であろう。私は現在のところCarbonPrintにしか試していないので、その他の技法に関して述べることはできない。そこでカーボンプリントにおけるDASsensitizingはクロムと比較すると基本的に次のようなものである。

 1. カーボンティシュへの塗布はクロム同様に刷毛塗りもしくは浸漬により可能である。
 但しクロムの刷毛塗りの場合、アセトンを加えることで乳剤への浸透を進め且つ乾燥を速めることができるがDASでは避けた方が良いようである。理由としてはDAS自身がアルコール系と相性が悪く、また3%以上の濃度液が作れないため、薄めたくない場合は水溶きのままで塗布するしかないからである。ところが水だけの溶液の刷毛塗りだと、カーボンティシュ表面からの吸い込みが悪く、ムラを作らないためにかなり気を使うことになる(まだ試していないが界面活性剤の利用が可能かもしれない)。それではティシュを丸ごとDAS溶液につけるのはどうかというと、均質化においては有効だが溶液をかなり無駄にすることを覚悟しなければならない。また毒性がないとはいえ、こぼれたDAS液の付着は後で褐色の汚れとなり厄介である。

 2. カーボンティシュ作成の際、ゼラチンにDASを直接混ぜ込む。
 実はこの方が簡単かつ有効な手法である。海外の作家の記事にゼラチン量に合わせて適量のDASを直接混入させると良いとあり、私も実行してみたところ非常に好結果を得たものである。低温保存を必要とするDASを高温のゼラチン液に加えて果たして変質などしないものかと訝ったが、何の支障も出ない。但し ゼラチン/色材 混合液の調合には若干の変更を加える必要があった。DASを混入したglopはベース紙にいつも通り塗布して乾燥させておけば完成である。しかも、クロムでsensitizeしたティシュは数日中に使用しないと支障が起きることが多いが、この手法でのDASsensitizingのティシュは冷暗所におけば2週間(私の経験範囲で) 経っても大丈夫なのである。ただし、厳密な意味での劣化の進行については判らないことをお断りしておく。あくまでも私の感覚でのことである。
 このようにカーボンティシュの作り置きができることと相まって、刷毛塗りと違い乳剤層全体に均等な濃度のsensitizeができるこの手法は、カーボンプリントにとり大いに有利なことであり、またDASの消費も最小限で済むというありがたさもあるのだ。

    ※DAS混入カーボンティシュからのプリント。オリジナルはもっと柔らかで繊細な表現。
DAS使用のカーボンプリントについて #3_b0229474_09084738.jpg
以下次回

DASについて基本的な性質を述べようと思う。
DASは毒性を持たないと前回に記した。もちろん飲んでも平気ということではないが安全性の高い薬品であることは確かであろう。また、後述するが使用量としても少量で済み効率の良いsensitizerである(但し価格は高い!)。
 DASは淡褐色の粉末であるが、3〜4%の水分を含み、あくまで私見だが感触としては ”シケたそば粉” のような感じである。この水分は大切で乾燥させてはならない。(追記:乾燥したDASは強い可燃性を持つので加湿された状態で販売されている)
 保存は気密の容器に入れ遮光し、できるだけ低温に置くことが必要である。ただ、私は日本の販売店から冷凍することは避けるように言われているが、アメリカの文献では冷凍した方が長期保存に良いとしている。私自身は二重の黒いビニール袋に入れ冷蔵庫に保存しているが2年間保存のものでも変質は見られないでいる。
          ※この写真では実際より色濃く写っている。またもう少し粉っぽい。
DAS使用のカーボンプリントについて #2_b0229474_21335684.jpg

DASには更に次のような特性がある。
 1. 水(H2O)には溶けるがアルコール類には溶解しない。私はカーボンプリントに必須のイソプロピルアルコール99%で試したが、全く溶解しなかった。(水+アルコール)の混合には多少溶けるが、これは液中の水分によるものらしい。水溶液へのアルコール添加は可能。

 2. 溶解度は低い。冷水15〜20℃で3%で飽和してしまう。水温を上げれば多少は増すであろうが、水温が下がれば析出するので無駄である。したがってクロム系のように高濃度溶液を作成しておいて希釈しながら使うことはできない。溶液は遮光瓶で低温保存できる。

 3. DASの保存は冷暗環境でと書いたが、上記の写真のような照明下に置くと次第に赤褐色に変色してくる。したがって粉体の内から取り扱いは紫外線の出ない暗めの照明が求められる(もちろん溶解後も同様である)。DASのUV感度は335nmがピークらしいが、クロムほどの感度はないのでかなり明るい部屋で扱える。私は40W相当の電球色LED(500nm以下カット球)の下で作業している。

 4. DASで感光化したカーボンティシュは、冷暗所に保存すればかなり長期間有効に使用できる(多分数週間)。これはクロムで感光化したものより有利と思われる。ただし私は数日以内で使用するのでどこまで有効かはまだ試したことはない。

 5.肝心のDAS sensitizing でのプリント階調であるが、クロムに比較すればやや軟調気味になるといえる。コントラストはクロム同様に塗布する濃度で調整が効く。またゼラチンに直接混ぜ込むという手法もあり効果的である。

             
※ 参考までにDAS濃度のチャート例を載せておく。自作のステップウェッジネガと実用よりかなり硬調のティシュから作成している。色ムラに見えるのは水彩紙の紙目のシボによる。リニア性はかなり確かである。  ( 画像クリックで拡大)
DAS使用のカーボンプリントについて #2_b0229474_23364858.jpg
     以下次回









 しばらくオルタナティブプリントの作成自体ををサボっていた私であるが、目下のCOVID-19騒ぎで家におとなしくしているうちに、長く中断しすでに誰にも忘れられたであろう自身のブログの再開を思いついた。そこでこれから紹介程度にはなるが、DASという感光剤使用のカーボンプリントについて載せていこうと思う。
 多くのオルタナティブな古典的写真技法にはクロム系の感光剤が使われている。その毒性の強さは取り扱いに特別の慎重さが要求されるものである。しかし近年、このクロム系に代わる物が使われるようになってきている。それはジアゾ系の
4,4'-Diazidestilbene-2,2'-disulfonic acid, disodium salt, tetrahydrate
4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルフォニック アシッド, ジソジウム ソルト, テトラヒドラート
というものである。長すぎるので通称” DAS ”と呼ばれている。
主体はスチルベン (stilbene) という芳香族の一種で、光による重合(モノマー)反応を利用した薬品である。
アメリカのオルタナティブ写真では早くからこのDASがクロム系に代わって多用されていて、写真家の交流サイトには次のような記述が見られる。
This sensitizer is a non-carcinogenic and non-toxic alternative to the dichromates historically used in carbon printing (potassium, ammonium, etc.) and similar processes.
Differences in working technique with DAS are minimal.
 要するに毒性を持たず、使用法にも従来のものと大きな相違はないということなので、これは見過ごすことのできないメリットである。実ははるか以前から使われてきたものとして、このDASの兄弟分というか、先輩とも言うべき感光剤がある。それはシルクスクリーン印刷の感光乳剤として使うジアゾ感光剤である。ただシルクスクリーン印刷の場合は、スクリーンのメッシュに塗布した乳剤にインクを通す箇所以外を単純硬化させるだけの働きで済む。それに比べ写真のプリントの場合は定着させる色材に濃淡の階調を作り出す必要があるわけで、カーボンプリントの場合には、ネガ(ポジ)の階調に対応したゼラチンの硬化ができ、それも出来るだけリニアな特性でに発揮されなければならない。これができるのがDASなのである。他の写真製版類にもアジド系が使われているかと思うが、私は不勉強にして知らない。
 私は数年前にこのDASの存在を知り、自分のカーボンプリントに取り入れてきた。上記のように、クロム系と大きな違いなく使えるとは言われても、実際に試してみれば当然ながらただ置き換えれば良いという訳にはいかない。ノウハウ資料の少なさもあって、いまだ満足のいく作品化に至らずというのが正直なところではあるが、次回よりこのDASを使ったカーボンプリントつき、あらためて検討しながら紹介していきたい。

 久しぶりどころか枯木にまた芽が出たようなブログUPになった。なまけているとずるずる月日が過ぎてしまう。まとまったことが出来たら書こうなどと自分に言い訳しているからこうなる。これからは雑記帳的に載せていこうかとも思うのだがどうなるか。
 さて、今年(14年)8月に初めて「東京8×10組合」の写真展に参加させてもらった。日頃は8×10カメラなど押し入れにしまい込んでいるので、手入れをし直したりフィルムを注文したり、暗室を大判フィルム現像用に模様替したりと大騒ぎしてしまった。会のベテランメンバーの方々の作品と肩を並べようとしても無理なことはわかっていたが、自分の出来ることで何か特長を出したい。とすればやはりカーボンプリントだろう。8×10なら原寸ネガでOK。透明ガラスもしくはアクリルの裏面プリントでいくことにした。更に試みとして、昨年東京・六本木の富士フイルムスクエアで見たOrotone(オロトーン)写真の技法を加えてみることにした。
Orotoneとは次のようなものである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Orotone
富士フイルムスクエアではEdward Curtisがアメリカ先住民を写した写真が展示され、その内の数枚がOrotoneであった。
Edward Curtisとその作品とは次を参照されたい。
http://www.orotone.org/edward-curtis-orotones--curtis-indians-catalog.html
oroとは英語のgoldであり、文字どおり純金の粉末をガラスポジの画像の上に塗布するというものなのだ。ガラス乾板同士を密着焼きすればポジ像が得られる。このポジ像の乳剤の上から24金の粉末を「バナナオイル」
(酢酸イソアミル)で溶いて塗るのだという。すると黄金にかがやく(バナナの香りもする)豪華写真が出来上がるというわけである。当時はガラス保護のため額装されて高価に販売されたらしい。また金があれば当然銀粉を使ったSilvertoneもあったわけである。
 しかし現在本物の金粉は1g7千円前後もする、だいいち純金や純銀などを使う価値のある写真など私に望むべくもない。そこで画材に使われるフェイクな金銀として真鍮やアルミの粉末がある。今回は作成するポートレイトの雰囲気を考え銀(アルミ)末を使うことにした。バナナオイルの方は実は現在でも普通に市販されている。バナナ風味の香料や有機溶媒としてであるが、そもそも金粉の固定になぜバナナオイルだったのかがわからない。化学に強い人に聞きたいものである。それはともかく私は現代的に日本画で使うグルー液を使うことにした。画像周囲をテープでマスキングし、アルミ粉末をまぜたグルー液を流し、ガラス棒で伸ばし厚く塗布する。画像のレリーフへの悪影響が不安であったが、まず変化は見られなかった。出来上がった画像は照明の角度によりコントラストが変化し、ハイライトの輝きが美しい。カーボンプリントが本来持つ立体感といったものが強調されたように感じた。ご覧頂いた方々にも好評をいただくことができたようで、今後さらに研究しorotoneどおりの金色もためしてみたい。


Orotone(オロトーン)応用でのカーボンプリント_b0229474_11572691.jpg


(高透過ガラスに墨液でカーボンプリント/silvertone 処理/8×10 )
実物の味はお見せできません