多くのオルタナティブな古典的写真技法にはクロム系の感光剤が使われている。その毒性の強さは取り扱いに特別の慎重さが要求されるものである。しかし近年、このクロム系に代わる物が使われるようになってきている。それはジアゾ系の
4,4'-Diazidestilbene-2,2'-disulfonic acid, disodium salt, tetrahydrate
4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルフォニック アシッド, ジソジウム ソルト, テトラヒドラート
というものである。長すぎるので通称” DAS ”と呼ばれている。
主体はスチルベン (stilbene) という芳香族の一種で、光による重合(モノマー)反応を利用した薬品である。
アメリカのオルタナティブ写真では早くからこのDASがクロム系に代わって多用されていて、写真家の交流サイトには次のような記述が見られる。
さて、今年(14年)8月に初めて「東京8×10組合」の写真展に参加させてもらった。日頃は8×10カメラなど押し入れにしまい込んでいるので、手入れをし直したりフィルムを注文したり、暗室を大判フィルム現像用に模様替したりと大騒ぎしてしまった。会のベテランメンバーの方々の作品と肩を並べようとしても無理なことはわかっていたが、自分の出来ることで何か特長を出したい。とすればやはりカーボンプリントだろう。8×10なら原寸ネガでOK。透明ガラスもしくはアクリルの裏面プリントでいくことにした。更に試みとして、昨年東京・六本木の富士フイルムスクエアで見たOrotone(オロトーン)写真の技法を加えてみることにした。
Orotoneとは次のようなものである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Orotone
富士フイルムスクエアではEdward Curtisがアメリカ先住民を写した写真が展示され、その内の数枚がOrotoneであった。
Edward Curtisとその作品とは次を参照されたい。
http://www.orotone.org/edward-curtis-orotones--curtis-indians-catalog.html
oroとは英語のgoldであり、文字どおり純金の粉末をガラスポジの画像の上に塗布するというものなのだ。ガラス乾板同士を密着焼きすればポジ像が得られる。このポジ像の乳剤の上から24金の粉末を「バナナオイル」
(酢酸イソアミル)で溶いて塗るのだという。すると黄金にかがやく(バナナの香りもする)豪華写真が出来上がるというわけである。当時はガラス保護のため額装されて高価に販売されたらしい。また金があれば当然銀粉を使ったSilvertoneもあったわけである。
しかし現在本物の金粉は1g7千円前後もする、だいいち純金や純銀などを使う価値のある写真など私に望むべくもない。そこで画材に使われるフェイクな金銀として真鍮やアルミの粉末がある。今回は作成するポートレイトの雰囲気を考え銀(アルミ)末を使うことにした。バナナオイルの方は実は現在でも普通に市販されている。バナナ風味の香料や有機溶媒としてであるが、そもそも金粉の固定になぜバナナオイルだったのかがわからない。化学に強い人に聞きたいものである。それはともかく私は現代的に日本画で使うグルー液を使うことにした。画像周囲をテープでマスキングし、アルミ粉末をまぜたグルー液を流し、ガラス棒で伸ばし厚く塗布する。画像のレリーフへの悪影響が不安であったが、まず変化は見られなかった。出来上がった画像は照明の角度によりコントラストが変化し、ハイライトの輝きが美しい。カーボンプリントが本来持つ立体感といったものが強調されたように感じた。ご覧頂いた方々にも好評をいただくことができたようで、今後さらに研究しorotoneどおりの金色もためしてみたい。
(高透過ガラスに墨液でカーボンプリント/silvertone 処理/8×10 )
実物の味はお見せできません