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 ガラスへのカーボンプリント(その1)で書けなかった技法上のことなど付け足しておこうと思う。
 今回使用したガラス板は「高透過ガラス」というもので、通常のガラスの持つ緑がかった性質を改善して無色透明性を強くした3ミリ厚のものである。しかし実用上は 2、3ミリの板厚では透過光が緑がかることはまず感じられないし、ましてモノクローム写真ではオーバークオリティーといえる。当然値段も高いのである。まずガラスは普通の窓ガラスなどに使われているもので十分だろう。
 次にガラスはそのままではゼラチンの接着が悪く、転写現像の際、画像が剥がれて流れてしまうのだ。そこでこれを防ぎ、ゼラチン膜が安定強固に張り付くための下地作りが必要になる。紙や布、木などの場合には硬度を上げた無色ゼラチンを下引きすることでOKである。古い日本の技法書を見るとガラス板への下引きもゼラチンの使用をあげているが、表面を磨りガラス状にして塗布しろと書かれている。そうすることでゼラチンの喰い付をよくするわけである。しかしこれは転写面をそのまま見る場合であって、私の目的とする背面に転写してガラスを透して見ることはできなくなる。
 金属やガラス、プラスチックなどに接着剤や塗料などが有効に働くよう、両者に対し親和性を持たせた(シラン化した)コーティング剤がある。これは無機質材と有機質材の接着の仲立ちをしてくれるのでカップリング剤とも呼ばれ、半導体製造でも重要な工業品らしい。これを利用することが最善の策である。B&Sのテキストによれば Amino Silane(アミノシラン) を塗布すると書かれている。ところが、これらが驚くほど高価なのである。安いものでも1キロ数万円もする。しかも工業用であるので、500gとか250mlなどとけちくさい量では販売されていない(そもそも一般販売がない)のである。これには困った。B&Sで販売していると書いてあるので、田町のPGさんに問い合わせたら、輸入は無理とのこと。他にはコロタイプで水ガラス(ケイ酸ナトリウム)を下引きに使うが、これは素人には水飴のように取り扱いがやっかいな代物。それに半透明の膜をつくるので却下。
 やがてふと思い出したのだが、世の中にはガラス絵というものがあるではないか。ガラスの裏側に絵筆で描く手法で表からガラスを透して見る、まさに私のやりたいことである。いぜん某画廊で見たガラス絵はたしかアクリル絵具使用とあった。アクリル絵具は水で溶くのが普通で、そのままではガラスにはじかれてしまう。となれば、あの絵のガラスにはなにか下地処理がしてあったはずである。さっそく画材カタログを漁って見たところそれはあった。ガラスや金属に水彩絵の具で描くためのコート剤として「ガラスプライマー」「メタルプライマー」などの名称で数社から販売されている。150mlで千円ほど。成分表示はないが、用途からしてこれもシラン系のものであろう。とにかくこうして最大の懸案は解決したのだった。
 早速買ってきたガラスプライマーでコーティングをした。実のところこれもまた結構やっかいなことがあったのだが子細は省略する。プライマー液は白濁していたので少し心配したが、コーティングはごく薄いので透明性は良好であった。かくしてサポートガラスの用意はできた。ガラスへの転写自体はそれほど難しいことではない。かえって紙のようにぐにゃぐにゃしないだけ楽なぐらいである。結果としてプライマーの働きは完璧であった。しかも塗布乾燥後は耐水性となり、ゼラチンのように温水で溶け出すこともない。かくしてガラスへのカーボンプリントは一応の完成を見たのである。
 しかしガラスは重い。今回は太子額サイズの3ミリ厚(高透過ガラスには2ミリ厚がない)、一枚づつの処理はいいとしてこれが数十枚まとまったらやっかいだ。紙のように保管箱に重ねて入れておくのも危険である。今後はアクリルなどの樹脂板の使用も検討したいとおもう。
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  ガラスへのカーボンプリントを試すと書いてから、えらく時間が過ぎてしまった。実はかなり前に一応の成果はあったのだが、ツイッターで一言書き込んだだけになっていた。ここでひとまず記録しておくことにする。
 何度も書いているようにカーボンプリントは、平滑面であればたいていの物に表現できる特性を持っている。ガラスへのプリントはもちろん昔から行われていて、その技法も多くの解説書にある。ただ、私の知る範囲では、それらのプリントはガラスを紙媒体と同様に扱うもので、乳白色のガラスの表面にプリントして観賞するものであった。私の場合はガラス板の湿板写真などに刺激を受けて思いついたことで、透明ガラスを通して転写された裏面を見るようにしたらどうか、という発想であった。つまりはあのガラスの裏側に絵筆で描く「ガラス絵」の写真版であろう。
 さて、試行の結果から言うと、実に精細かつ重厚な描写が出来ることが分かった。理由としてはカーボンプリントの全工程を通して、ガラス板が硬質の完全平滑面を保持するという効果である。紙のサポート体の場合には、紙質や下引きのゼラチンの影響が大きい。プリント面の凹凸や繊維質が吸水膨張したり乾燥収縮する際に、カーボンプリントの命である転写されたゼラチンのレリーフに与える影響が避けがたいのである。水彩紙の場合など、中目細目などの紙肌がそのままプリント表面に現れる。もちろん紙質が絵柄にある種の味わいを与える効果はあるわけで、それを目的とする場合には問題とするものではない。
 ガラスの場合にはどうか。ガラスは冷水や温水に浸けても(厳密な変化は置くとして)硬質平滑な表面を保つので、転写されたカーボンティシュのゼラチンは安定して付着していることができる。顔料の厚みの変化で階調を出すのがカーボンプリントだが、紙サポートの場合には現像直後の濡れた状態では見られるゼラチンのレリーフが、乾燥後にはまったくわからなくなる。ところが、ガラスサポートでは乾燥後もこのレリーフがはっきり目視できるのである。顔料レリーフを(当然乾燥収縮分はあるが)残した仕上がり、これが解像力の良さと立体感に通ずる描写となって現れるのだろうと思う。ただしこれはガラス本体を透かして見た場合で、つまりプリント面を「裏側」から見ている状態である。この場合ガラスに張り付いているゼラチン面を見るので見た目は完全に平滑である。プリント面を直接見た場合には、今度は逆にレリーフの存在が邪魔をして少し汚い絵面に見えるような印象である。
 ガラスプリントのプラス面ばかりを書いてきたので少しマイナス面も書く。ガラス板へのカーボンプリントは原則として単転写であり複転写はむずかしい。ガラスを一枚分透して見ることになるので、表面反射や映り込みが邪魔に思えることもある。これは紙プリントの額装で保護ガラスがかけられている場合と同様である。これがいやなら無反射コーティングガラス(ノングレアの磨りガラスではだめ)の利用が理想であるが、値段が桁外れに高い。またガラスは当然ながら重く、割れる恐れがあり、大判になるほど扱いが面倒である。更に私の手法(裏見)ではつや消しのマット状プリントは不可能である。
 技術的にいろいろ面倒なことがあるが、それを超えてガラスカーボンプリントは魅力的であると思う。工夫次第で様々なバリエーションが得られるであろう。これからとにかく作品として観賞に値するものを作りたい。
 技法的な説明は次回の記事に廻すことにする。

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ガラスへの転写現像が終了した状態。当然ハイライトは素抜けになる。

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裏に白紙をあてて通常のポジとなる。このバックシートの種類で印象を変えることができる。
ブログ写真では実物のクオリティーは出せないのでお許しを。
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