カテゴリ:カーボンプリント技法( 10 )

 久しぶりどころか枯木にまた芽が出たようなブログUPになった。なまけているとずるずる月日が過ぎてしまう。まとまったことが出来たら書こうなどと自分に言い訳しているからこうなる。これからは雑記帳的に載せていこうかとも思うのだがどうなるか。
 さて、今年(14年)8月に初めて「東京8×10組合」の写真展に参加させてもらった。日頃は8×10カメラなど押し入れにしまい込んでいるので、手入れをし直したりフィルムを注文したり、暗室を大判フィルム現像用に模様替したりと大騒ぎしてしまった。会のベテランメンバーの方々の作品と肩を並べようとしても無理なことはわかっていたが、自分の出来ることで何か特長を出したい。とすればやはりカーボンプリントだろう。8×10なら原寸ネガでOK。透明ガラスもしくはアクリルの裏面プリントでいくことにした。更に試みとして、昨年東京・六本木の富士フイルムスクエアで見たOrotone(オロトーン)写真の技法を加えてみることにした。
Orotoneとは次のようなものである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Orotone
富士フイルムスクエアではEdward Curtisがアメリカ先住民を写した写真が展示され、その内の数枚がOrotoneであった。
Edward Curtisとその作品とは次を参照されたい。
http://www.orotone.org/edward-curtis-orotones--curtis-indians-catalog.html
oroとは英語のgoldであり、文字どおり純金の粉末をガラスポジの画像の上に塗布するというものなのだ。ガラス乾板同士を密着焼きすればポジ像が得られる。このポジ像の乳剤の上から24金の粉末を「バナナオイル」
(酢酸イソアミル)で溶いて塗るのだという。すると黄金にかがやく(バナナの香りもする)豪華写真が出来上がるというわけである。当時はガラス保護のため額装されて高価に販売されたらしい。また金があれば当然銀粉を使ったSilvertoneもあったわけである。
 しかし現在本物の金粉は1g7千円前後もする、だいいち純金や純銀などを使う価値のある写真など私に望むべくもない。そこで画材に使われるフェイクな金銀として真鍮やアルミの粉末がある。今回は作成するポートレイトの雰囲気を考え銀(アルミ)末を使うことにした。バナナオイルの方は実は現在でも普通に市販されている。バナナ風味の香料や有機溶媒としてであるが、そもそも金粉の固定になぜバナナオイルだったのかがわからない。化学に強い人に聞きたいものである。それはともかく私は現代的に日本画で使うグルー液を使うことにした。画像周囲をテープでマスキングし、アルミ粉末をまぜたグルー液を流し、ガラス棒で伸ばし厚く塗布する。画像のレリーフへの悪影響が不安であったが、まず変化は見られなかった。出来上がった画像は照明の角度によりコントラストが変化し、ハイライトの輝きが美しい。カーボンプリントが本来持つ立体感といったものが強調されたように感じた。ご覧頂いた方々にも好評をいただくことができたようで、今後さらに研究しorotoneどおりの金色もためしてみたい。


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(高透過ガラスに墨液でカーボンプリント/silvertone 処理/8×10 )
実物の味はお見せできません
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 コロジオン湿板法の一種にアンブロタイプがあり、その同類にティンタイプがある。どちらも本来はネガである像をポジに反転したように見せるという変わった技法であるが、このブログをご覧の方に説明の必要はないであろう。当初私は古い時代の手抜きの技法くらいに考えていた。しかし実物のアンブロタイプを見た時、その像体(物としての写真につけた私の勝手な造語)の力強さに魅せられたものである。そこで私はカーボンでもひとつ逆の発想でなにか出来ないかを考えてみた。それがポジtoポジのプリントである。カーボントランスファー法には決まった発色は無く、色材の選択で大抵の色は出せるわけである。だからもしネガと白いカラーティシュでプリントすれば見かけ上でネガティブの像ができる。そこでポジ画像をネガとして?白いカラーティシュと組み合わせれば生まれるものはポジ画像であろうと考えたのだ。まあ大した思いつきでもないのだがとにかくやってみた。カーボンプリントは露光特性のリニアー性が高く暗部の階調分離が大変良い。どちらかと言えばローキーな絵柄に向く技法である。それはもちろんダークな色材を用いたネガtoポジである。これを逆に明色系の色材を使ってポジtoポジでプリントするのである。一見ハイライトのみで作られたような像になるが、ネガtoポジであればそれは暗部に相当するのだから階調は出せるだろうと思ったのだ。結果を見ていただくと今回の結果は元ポジよりハイキー寄りとなり中間調が不足する傾向で、全体として階調が詰まり気味である。しかし予想通りハイライトの描写はなかなか繊細でありハイキーな絵柄には有効ではないかと思う。今後はカラーティシュの作りなどを変えてためさなくてならない。

写真1:元の画像をTPSフィルム上にプリントしたポジ像。意図的にコントラストは高め。
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写真2:写真1を使い透明アクリル板上に白色でプリントしたポジポジ像
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写真3:写真2の裏側に黒色フエルト紙を当てた状態。疑似アンブロタイプ?
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写真4:黒マットのアクリル板上にプリント。疑似ティンタイプ?? 
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今回は透明水彩絵の具を使用した。そのため透明感が強くなり特に写真4では明度が下がったようだ。なお反射率を上げるためパール粉末を少量混入している。    以上
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 ガラスへのカーボンプリント(その1)で書けなかった技法上のことなど付け足しておこうと思う。
 今回使用したガラス板は「高透過ガラス」というもので、通常のガラスの持つ緑がかった性質を改善して無色透明性を強くした3ミリ厚のものである。しかし実用上は 2、3ミリの板厚では透過光が緑がかることはまず感じられないし、ましてモノクローム写真ではオーバークオリティーといえる。当然値段も高いのである。まずガラスは普通の窓ガラスなどに使われているもので十分だろう。
 次にガラスはそのままではゼラチンの接着が悪く、転写現像の際、画像が剥がれて流れてしまうのだ。そこでこれを防ぎ、ゼラチン膜が安定強固に張り付くための下地作りが必要になる。紙や布、木などの場合には硬度を上げた無色ゼラチンを下引きすることでOKである。古い日本の技法書を見るとガラス板への下引きもゼラチンの使用をあげているが、表面を磨りガラス状にして塗布しろと書かれている。そうすることでゼラチンの喰い付をよくするわけである。しかしこれは転写面をそのまま見る場合であって、私の目的とする背面に転写してガラスを透して見ることはできなくなる。
 金属やガラス、プラスチックなどに接着剤や塗料などが有効に働くよう、両者に対し親和性を持たせた(シラン化した)コーティング剤がある。これは無機質材と有機質材の接着の仲立ちをしてくれるのでカップリング剤とも呼ばれ、半導体製造でも重要な工業品らしい。これを利用することが最善の策である。B&Sのテキストによれば Amino Silane(アミノシラン) を塗布すると書かれている。ところが、これらが驚くほど高価なのである。安いものでも1キロ数万円もする。しかも工業用であるので、500gとか250mlなどとけちくさい量では販売されていない(そもそも一般販売がない)のである。これには困った。B&Sで販売していると書いてあるので、田町のPGさんに問い合わせたら、輸入は無理とのこと。他にはコロタイプで水ガラス(ケイ酸ナトリウム)を下引きに使うが、これは素人には水飴のように取り扱いがやっかいな代物。それに半透明の膜をつくるので却下。
 やがてふと思い出したのだが、世の中にはガラス絵というものがあるではないか。ガラスの裏側に絵筆で描く手法で表からガラスを透して見る、まさに私のやりたいことである。いぜん某画廊で見たガラス絵はたしかアクリル絵具使用とあった。アクリル絵具は水で溶くのが普通で、そのままではガラスにはじかれてしまう。となれば、あの絵のガラスにはなにか下地処理がしてあったはずである。さっそく画材カタログを漁って見たところそれはあった。ガラスや金属に水彩絵の具で描くためのコート剤として「ガラスプライマー」「メタルプライマー」などの名称で数社から販売されている。150mlで千円ほど。成分表示はないが、用途からしてこれもシラン系のものであろう。とにかくこうして最大の懸案は解決したのだった。
 早速買ってきたガラスプライマーでコーティングをした。実のところこれもまた結構やっかいなことがあったのだが子細は省略する。プライマー液は白濁していたので少し心配したが、コーティングはごく薄いので透明性は良好であった。かくしてサポートガラスの用意はできた。ガラスへの転写自体はそれほど難しいことではない。かえって紙のようにぐにゃぐにゃしないだけ楽なぐらいである。結果としてプライマーの働きは完璧であった。しかも塗布乾燥後は耐水性となり、ゼラチンのように温水で溶け出すこともない。かくしてガラスへのカーボンプリントは一応の完成を見たのである。
 しかしガラスは重い。今回は太子額サイズの3ミリ厚(高透過ガラスには2ミリ厚がない)、一枚づつの処理はいいとしてこれが数十枚まとまったらやっかいだ。紙のように保管箱に重ねて入れておくのも危険である。今後はアクリルなどの樹脂板の使用も検討したいとおもう。
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  ガラスへのカーボンプリントを試すと書いてから、えらく時間が過ぎてしまった。実はかなり前に一応の成果はあったのだが、ツイッターで一言書き込んだだけになっていた。ここでひとまず記録しておくことにする。
 何度も書いているようにカーボンプリントは、平滑面であればたいていの物に表現できる特性を持っている。ガラスへのプリントはもちろん昔から行われていて、その技法も多くの解説書にある。ただ、私の知る範囲では、それらのプリントはガラスを紙媒体と同様に扱うもので、乳白色のガラスの表面にプリントして観賞するものであった。私の場合はガラス板の湿板写真などに刺激を受けて思いついたことで、透明ガラスを通して転写された裏面を見るようにしたらどうか、という発想であった。つまりはあのガラスの裏側に絵筆で描く「ガラス絵」の写真版であろう。
 さて、試行の結果から言うと、実に精細かつ重厚な描写が出来ることが分かった。理由としてはカーボンプリントの全工程を通して、ガラス板が硬質の完全平滑面を保持するという効果である。紙のサポート体の場合には、紙質や下引きのゼラチンの影響が大きい。プリント面の凹凸や繊維質が吸水膨張したり乾燥収縮する際に、カーボンプリントの命である転写されたゼラチンのレリーフに与える影響が避けがたいのである。水彩紙の場合など、中目細目などの紙肌がそのままプリント表面に現れる。もちろん紙質が絵柄にある種の味わいを与える効果はあるわけで、それを目的とする場合には問題とするものではない。
 ガラスの場合にはどうか。ガラスは冷水や温水に浸けても(厳密な変化は置くとして)硬質平滑な表面を保つので、転写されたカーボンティシュのゼラチンは安定して付着していることができる。顔料の厚みの変化で階調を出すのがカーボンプリントだが、紙サポートの場合には現像直後の濡れた状態では見られるゼラチンのレリーフが、乾燥後にはまったくわからなくなる。ところが、ガラスサポートでは乾燥後もこのレリーフがはっきり目視できるのである。顔料レリーフを(当然乾燥収縮分はあるが)残した仕上がり、これが解像力の良さと立体感に通ずる描写となって現れるのだろうと思う。ただしこれはガラス本体を透かして見た場合で、つまりプリント面を「裏側」から見ている状態である。この場合ガラスに張り付いているゼラチン面を見るので見た目は完全に平滑である。プリント面を直接見た場合には、今度は逆にレリーフの存在が邪魔をして少し汚い絵面に見えるような印象である。
 ガラスプリントのプラス面ばかりを書いてきたので少しマイナス面も書く。ガラス板へのカーボンプリントは原則として単転写であり複転写はむずかしい。ガラスを一枚分透して見ることになるので、表面反射や映り込みが邪魔に思えることもある。これは紙プリントの額装で保護ガラスがかけられている場合と同様である。これがいやなら無反射コーティングガラス(ノングレアの磨りガラスではだめ)の利用が理想であるが、値段が桁外れに高い。またガラスは当然ながら重く、割れる恐れがあり、大判になるほど扱いが面倒である。更に私の手法(裏見)ではつや消しのマット状プリントは不可能である。
 技術的にいろいろ面倒なことがあるが、それを超えてガラスカーボンプリントは魅力的であると思う。工夫次第で様々なバリエーションが得られるであろう。これからとにかく作品として観賞に値するものを作りたい。
 技法的な説明は次回の記事に廻すことにする。

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ガラスへの転写現像が終了した状態。当然ハイライトは素抜けになる。

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裏に白紙をあてて通常のポジとなる。このバックシートの種類で印象を変えることができる。
ブログ写真では実物のクオリティーは出せないのでお許しを。
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 このところサボりつづけてろくなプリントもできていない。ブログの更新もサボりつづけてきたが、書き込み方を覚えているうちに更新することにした。(言い訳終わり)
 ネタがないので自分の暗室を一部紹介することにする。自宅の作業小屋の奥に自作したささやかな暗室である。あまりに狭い(四畳ほど)ので多目的に使うことができない。現在はカーボンプリントに特化した構成になっている。(その他のオルタナティブもむろん可能であるが)

今回は作業台と道具類を見ていただく。
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 白く見える部分が5ミリ厚のガラスを貼った作業台である。周囲三方に縁が付けられ液体がこぼれないようにしてある。右側の端には縁がなく、また普段このガラスは傾斜がつけられていて、排水は右のシンクへと流れ落ちるようになっている。
 上に乗っているガラス板(8ミリ厚)がティッシュ類を置いてあれこれするテーブルである。カーボンティッシュを作るために水準器で正確に水平に調整している。なぜこのように二重の台にするかというと、フィルムや紙類にローラーやスキージがけをした時の水はけをよくするためと、ガラス板の温度調整が楽になるからである。広い面積が必要な時は取り外して下のガラスを水平にすることができる。

 次に道具類をお見せする。
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 主だった道具類を一部並べてみた。ゴムローラーやスキージはフィルムや支持紙の圧着や水切りに使用する。細い棒のようなものは、カーボンティッシュを作る際のゼラチン塗布に使うアルミパイプと長尺ボルトである。また、下方の白い板のようなものはマグネットゴム板で、鉄板を敷いた上に張り付けてカーボンの厚みを調整するものである。
 写っている物の他にも湯煎ヒーター(前の写真の左横に少し写っている)やアクリル板、スポンジ類やブロアーなどいろいろと使用する。

もうひとつ欠かせないものがこれ。
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カーボンプリントは作成の各段階で冷水や温水を多量に使う。しかもかなり温度管理を慎重にする必要がある。また、どこへでも自由に給水できることが作業効率上不可欠である。そこでこの温度調節栓につないだ手持ノズルが活躍する。といっても特別のものではなく、植木鉢などの水やり用にホームセンターで売っている散水ノズルである。
 UV露光機については以前のカテゴリをご覧いただきたい。
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 カーボンプリントの製作過程を撮影したYou-Tubeを見つけたので紹介する。アメリカの作家らしいが、ほぼ全工程を通して分かりやすく編集されている。カーボンプロセスは他の古典技法以上に、現代的な薬品や素材が取り入れられているようだが、この動画中にも転写紙の下処理にAcrylic Polymerなるものが使われていて興味深い。絵画で使うジェッソの類いであろうか。(粘着剤か?)
 ところで、ネット検索で「カーボンプリント」と入力すると、一番大量にかかるのがカーボンフットプリントというもので、次がカーボンプリントなのだが、しかしこれは『高級なカーボン繊維製品風に見えるプリント』のことなのだ。オルタナティブ写真仲間として、プラチナプリントやガムプリントなどに比べ、なんという話題のなさであろうか。だから「本家の」カーボンプリントの出現はきわめて「貴重」なのである。
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 カーボンティシュはどれほどの厚みがあるのだろうか。画像を作るカーボン(顔料)は、カーボンティシュ上から剥ぎ取られる形でサポート紙に転写されるわけだが、最暗部であっても、カーボンティシュ上の100%が使われるわけではない。余裕のある未露光=未硬化層がなければ、その部分は転写時(カーボンティシュと印画紙の分離時)に破壊されてしまうからだ。ゆえにカーボンティシュ上に塗布される顔料(+ゼラチン)は、十分な厚みをもたせなければならない。技法書ではこの塗布厚を1㎜以上としていることが多いが、私は1.2㎜を最低厚としている。また、むやみに厚くしても現像時に無駄に流し去るだけであり不経済である。ティシュ上に塗布されたゾル状のゼラチンは、冷やす(固くなる、こわばるの意味でsetするという)とゲルとなり、次に乾燥してカーボンティシュができあがる。
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これがカーボンティシュの断面である。黒く見えているのが顔料で、上表面も黒いのだが、断面が見やすいように白く変えている。左右で厚みが違うが、右半部が乾いた状態で、左が水に浸けてゲル状に戻した状態である。実際にはこの右の状態で感光化し、ネガを重ねて露光する。現像時には転写紙が圧着されて温湯中に浸けられ、左のように膨張しながら未硬化部の溶解へと進むと考えられる。
 さて、その厚みであるが私の手元には1/100㎜精度のマイクロメータしかなく、またカーボンティシュの出来も毎回同一ではないから、あくまで参考とするにとどめたい。
 まず、断面下方の白線は紙で150μmである。これを含めて右250〜270μm、左700〜750μmであった。ゼラチンは1.2㎜厚に塗ったのであるから、ほぼ12分の1くらいに乾燥収縮したことになる。この厚さ100μmほどで、UVの感光度に応じた厚みを硬化分離するのであるから、なかなかどうして精妙な技法といえるではないか。
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<カーボンプリントの最大濃度とは>
モノクロームプリントの魅力のひとつに、シャドウ部の色がある。中でも深く沈潜するような黒の魅力に、私は引かれる。最暗部の濃度を上げることは、従来の銀塩プリントに限らず、オルタナテイブなプロセスにおいても重視されることである。そこで、カーボンプリントの最大濃度について考えてみたい。たとえばプラチナプリントであれば、ある現像結果で得られた最大濃度があるとしても、薬剤の工夫やベースとなる紙の選択等で、更に濃度を上げる可能性は残る。濃度やコントラストは、複数の化学的な変化の組み合わせに依拠するからである。それに対しカーボンプリントの場合には、ベース(印画紙)上の顔料(色粒)の集積度の差で階調を出す。具体的には、顔料を含むゼラチンの厚みの変化が濃度の変化(階調)となるのである。これは少し乱暴にいうと、一色の絵具を筆で塗ることに似ている。薄く塗れば淡く=明部、厚く塗れば濃く=暗部になる理屈である。したがって、ある一定以上はいくら塗り重ねても濃度が上がることはない。当たり前のことだが、つまりその絵具が持つ最大濃度以上は無理なわけである。これをカーボンプリントでいえば、ある顔料(色材)を選んで、カーボンティシュ(カラーティシュと呼びたいが)を作った段階で、得られうる最大濃度が決まってしまうということである。つまり、ゼラチンと顔料の混合物が上の説明の絵具に当たるわけだ。それでは、単に顔料の量が多ければ濃度が増してよいのかというと、そうではなく、実際にその顔料をゼラチン中にどれほど含ませるかは、コントラストのつきかたに関係するので、単純なことではない。
 コントラストについては、またいずれ書くことにする。

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26.5×16.5㎝ 墨液(赤茶系)使用
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 今日はカーボンプリントのプロセスを、ごく簡単に説明したい。もしこれを読んで興味をお持ちになったら、今後も技法に関したことを綴っていくので、つづけてご覧いただきたい。また、自分でもやってみたいと思われたら、先に上げた図書やHPを活用なさることをお勧めする。(ただし、アルスの本は入手困難と思う)
 さて、次の写真を見ていただきたい。
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①はカーボンティシュとよばれる紙である。ティシュとはtissueで薄紙のこと。
 その上にカーボン(顔料)をゼラチンに溶いたものが厚く塗られている。実際には紙自体もそれほど薄いも
 のではない。
②はフィルムネガティブ。密着プリントなので等倍のネガが必要である。これはインクジェットで作ったデジ
  タルネガ。
③は画像を転写させる紙、一度の転写(単転写)で済むなら、これが仕上げのベース(final support)になる。
  ①との接着をよくするため、ゼラチンをコーティングしてある。私は未経験だが、ガラスでも可能。
④は③の上に得られる最終イメージである。

 <作業の手順>
  1. カーボンティシュを必要な大きさにカットする。←3の乾燥の後でもよい
=以下は低照明下で行う=紫外線が出ない白熱灯なら、新聞が読める程度の明るさでよい。
 2. ティシュに二クロム酸カリあるいは二クロム酸アンモニウムで感光化する。←浸漬あるいは筆塗り
 3. 感光化したティシュを乾燥させる。←強制乾燥なら冷風程度で
 4. ティシュの上にネガを重ね、取り枠にセットする。←ネガの乳剤面を接する
 5. UV照明をあて、ゼラチンを硬化させる。→ネガの濃淡に応じた硬化がおきる
 6. バットに15℃以下の冷水を用意する。
 7. カーボンティシュより大きめの③のベース紙を用意する。←必ず大きさに十分余裕をみること
 8. 冷水中にティシュとベース紙を浸け、乳剤面どうしを合わせる。←気泡が入らぬよう注意
 9. 両者を張り合わせたまま引き出し、厚板ガラスなどの平滑な台の上に置く。
10. スクィージで強く擦り、合わせ面の水分を排除する。←全面を一度に擦れること
11. そのまましばらく(15分以上)放置して癒着を待つ。←上にガラス板を置き重しを載せてもよい
12. 温水(43℃)程度をバットに用意する。←実温度は①のゼラチンの溶融条件による
=以下は明るくしてかまわない=
13. 癒着したティシュとベース紙を温水に浸け、しばらく(数分)待つ。
14. ゼラチンが十分軟化したら、水中で両者を静かに剥がす。→カーボンティシュは捨てる
15. ベース紙を静かに揺すりながら、余分なカーボンを溶かし落とす。←必要なら温水を交換
16. 十分に現像したら引き上げ、水分を切る。←拭いたり触ったりはできない
17. 吊るすか水平に置くかして乾燥させる。←温風乾燥はしない
18. 完成→波打っている場合は冷温プレス

 以上がごく基本的な作成手順である。文字にすると、これでも煩雑に見えるが、実際の作業としては比較的単純なものである。もちろん、個々のプロセスでのパラメータや技術要領は必要であり、作者それぞれのノウハウがある。
 実はカーボンプリントでもっとも大切で、かつ難しいことは、良質のカーボンティシュを作ることなのだ。これについては別の機会に詳しく書きたい。

 
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 これまでの記事と順序が逆になった気がするが、ここで、カーボンプリントについて簡単に説明しようと思う。
 カーボンプリントは1860年代にイギリスにおいて技法が完成された。もともとは、他の写真法に見られるような変色(退色)が無く、耐久性のあるものを求めて研究されたようである。そのため、当初は最も耐光に優れ、耐久性のあるカーボン(炭素)が利用された。これが名前の元になっている。やがて色彩に変化をつけるため、各種のピグメント(顔料)も使用されるようになったのである。実際に制作された年代としては、19世紀後半から1930年代までといったところだ。耐久性と階調の良好さから、美術品の写真複製や図版の作成などに多用された。残念ながら日本での普及はほとんど見られず、当時の実物をみることはなかなかむずかしい。
 ところで、ピグメントといえば、ふつう画材店などで売られている粉末状の顔料をいう。カーボン粉末もその中に含まれる。この粉末をつかう他の技法としては、アンスラコタイプ、ダストタイプなどがある。また、ピグメントを各種の油性や水性のバインダーに練り込んだ、いわゆるチューブ絵具類も写真プリントに使われている。これには、ガムプリント、カーブロプリント、オイル(ブロムオイル)プリント、フォトグラビア等がある。そして、カーボンプリントは、これら粉末顔料も水彩チューブ絵具も、更に書道の墨汁さえも利用できるのだ。もちろん製品によっては不適当なものも存在するが、多様な色材を選べることは、カーボンプリントの楽しみのひとつといえる。
 さて、カーボンプリント技法の最大の特徴は画像の転写にある。たいていの写真技法は、一枚のベース(紙であれガラスであれ)の上にイメージを結像し、これを最終画像とする。つまり、ネガの有る無しは関係なく、感光(乳)材を塗ったベースがその後のプロセスを経て、そのまま鑑賞物となるわけだ。ただしフォトグラビアなどの製版印刷的なものは、技法的に別種である。これに対しカーボンプリントでは、ベース上に塗った感光材の上に、いったん画像(潜像)を形成し、この画像を更に別のベースに移し(転写)た後に最終画像とする、という一見複雑な過程をふむ。しかも、一度転写(假転写)したものを更に別のものに転写するという、複転写の手法もある。顔料の粒子はフィルム中の銀粒子などにくらべれば遥かに大きい。それにもかかわらず、カーボンプリントに豊かな階調と解像度を与えるものが、この転写という手法なのである。
 
次回からは、もう少し具体的に解説していく。

<興味ある方への参考文献>
「手作り写真への手引き」 荒井宏子著  写真工業出版社
「最新冩眞大講座9」  アルス
「Book of Modern Carbon Printing」 Dick Sullivan HonFRPS (PGI 取り扱い)
 A Primer on Carbon Printing  Sandy King
The Carbon Transfer Process Sandy King
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